クラウドとは何か?(後編)


●クラウドによって何が変わるか 【その3】
-OS/DB/ミドルウエアのオープンソース化-
現在データベースの主流はOracleである。OSの主流はWindowsである。
この磐石の寡占ビジネスがクラウドの登場によっていままさに崩壊しようとしている。

クラウドで採用されるミドルウエア(APサーバーやDB等のインフラソフト)は基本的に無料(フリー)のオープンソースが採用される。
商用DBの雄OracleのかわりにGoogleが採用しているMySQLやPostgreSQLが採用され、WeblogicやWebshereに代表されるAPサーバーにはApacheやGrassfishのフリーソフトが採用される。またOSはセキュリテイが弱いWindowsサーバーではなく、より堅牢なLinuxサーバーが採用される。しかもそれはライブラリが有料のRed Hatではなく、SuSE LinuxやCentOSのようなオープンソースが主流をしめるであろう。
IBMのSmart CloudサービスのようなPaaS(Platform as a Service)ではミドルウエアもサービスのなかに組み込まれているのでこの限りではないが、Nifty CloudやAmazonのEC2のようなIaaS(Infurastructure as a Service)では、OSくらいしか提供しないので、選択肢はどうしても非商用のオープンソフトにならざるを得ない。そうなるといままでIT業界で覇権を握っていたOracleやWeblogicのような代表的商用ミドルウエアは使用されなくなるのである。
ここに大きな世代交代がはじまるのである。
昨日までの覇者がこれからは敗者となる壮絶な世代交代がいまから始まろうとしている。
この段階で最悪のIT投資は、非クラウド対応のERP(クラウドERPは現段階ではこの世に存在しませんが)+商用DB+大規模サーバーである。これは自殺行為となるかもしれない。

●クラウドによって何が変わるか【その4】
-水平分業からサービス統合の時代へ-
クラウド以前のオンプレミスの時代にはアプリーケーションソフトの購入、ミドルウエアの購入、DBの購入、OSの購入、ハードウエアの購入をすべてメーカーやベンダー別に注文しなければならなかった。
そして、そのメーカー毎に見積書、注文書、注文請け書、発注書、納品書、検収書を発行するともに社内手続きを踏まなければならなかった。
ところがクラウドの時代になるとSaaS業者が顧客と一本の契約で完了する。
たとえばHR&PayrollオールインワンパッケージサービスでECM社と契約を結べば、あとはどのベンダーとも契約する必要がない。
これが、水平分業からサービス統合の時代への変化である。
これにはもうひとつ大きな変化が伴う。
オンプレミスの時代には物を売り買いしていたので(要するにパッケージを仕切値で代理店に卸してその商品を代理店がエンドユーザーの販売していた)ので、物が流れる商流が存在した。商流が存在するということは商圏が存在した。すなわち同じ人事、給与、勤怠システムでもすでにA社の製品を扱っている代理店はB社の製品を同時に扱うことはなかったのである。その理由は物を売るとそれに対するマーケティングや営業部隊やカスタマイズチームやサポート部隊などのリソースが必要となる。同じような製品を2つも3つも扱うとそのリソースが無駄になって非効率になるからである。またいろいろなものを担いでいると同業他社と不要な安売りコンペになるので商売上も得策ではない。
これがクラウドの時代になるとどう変化するか?
クラウドはいわばソリューションのサービスを売るコンビニのようなものである。そこにシャンプーを置く棚があって、以前は商圏の関係で花王のシャンプーしか置けなかったが、顧客は利用するだけなので、いろいろなシャンプーを試してみたいと考えるのである。利用するだけだから、いやなら他のシャンプーを使えばよいのである。ところが、棚には目下のところ花王しかない。となると客は他の店(他のクラウド業者)に行ってしまうのである。そこでクラウドコンビニは花王だけなく、ライオンやユニリーバのシャンプーも置くようになるのである。クラウドコンビニにしてみれば何のシャンプーを買おうがその店から買ってくれれば何の問題もないからである。利用するだけで所有しないということは、カスタマイズしないからカスタマイズ部隊がいらない。サポートはトラブル対応のみ。選択肢を増やした方が顧客満足度は増すのである。
クラウドによるサービス統合によって、商品としてのソリューションはOne of contents となり、単なるサービスの選択肢のメニュとなる。ユーザーにとっては安価で選択肢の広いサービスが受けられるようになるのである。
そうなると自前主義で自社製品しか扱わなかった大手ベンダーは市場から消え去ることになるかもしれないのである。
ただマイクロソフトのクラウドであるAzureはマイクロソフト製品(.NET環境)しか扱わないので、この限りではない。今までどおり非互換的なバージョンアップとサポート切れとメーカー主導の価格戦略に悩ませられたいならば、今までどおりクラウドはマイクロソフトにすればいいだけの話である。


●クラウドによって何が変わるか【その5】
-サービスの立ち上げは1時間-
クラウド以前、オンプレミスの時代には、システムを立ち上げようと思ったら軽く一年はかかった。なぜならばマシンの手配に一ヶ月+ソフトウエアの購入に一週間+.........+データベースのセットアップに一週間 + ミドルウエアのセットアップに一週間 + ネットワークのセットアップに一週間 + .........+ アプリケーションのカスタマイズに一年費やしたからだ。
グローバルSCMを三ヶ月で稼動させたいとユーザーが望んでもこのリードタイムの山は解消できない。
ところがクラウドの環境はすべてがバーチャルなので物理的に購入するものはひとつもない。
ついでに言うと設定も仮想なのであらかじめ用意しておけば一瞬で構築可能なのである。
IBMのスマートクラウドではマイメージという概念があって、HTTPサーバー+APサーバー+DB+アプリケーションのセットをあらかじめ保存しておいてそれを仮想環境で一瞬にして立ち上げることが可能になった。この仕掛けは最新鋭機種のPURE SYSTEMにも応用されていて、トランザクションが増殖してサーバーのレスポンスが悪化すると自動的にサーバーを増殖させるSFのような機構が実用化されている。
固定IPアドレスでさえも設定して数秒で入手することができるようになっている。
もともとデジタルな信号はハードウエアと無関係に存在しうるのである。


●クラウドによって何が変わるか【その6】
-ハードウエア構成自由-
Niftyのクラウドでもそうだがクラウドは利用しないと課金されないか安価で環境を保持することができる。
そうなるとフォールトトレラントでノンストップの冗長性のあるサーバー構成が安価に構築できるようになる。
たとえばグローバルSCMのためにフォールトトレラントでノンストップ人事/給与/勤怠システムを構築しようと考えたら、本番系と待機系で二台(httpサーバー+APサーバー)*2で4台のサーバーが必要になる。それぞれにOSが搭載されてDBが搭載されてミドルウエアが搭載されて、そのバージョンアップと保守料がかかる。
銀行や証券のシステムでないかぎりこのような無駄な構成は許されない。
現実には1台のサーバーだけで構築することになるのである。
これがクラウドになると安価な費用でサーバーを構築でき、しかも地勢リスクも分散できるようなシステムが組めるようになる。 たとえばIBMのスマートクラウドの場合、本番系を幕張に構築して待機系をトロントに構築してDBをミラーリングすれば、関東大震災があって日本中が停電してもコンピュータは止まらないで運用することが可能になるのである。
グローバルSCMは日本だけの問題ではない。世界中からの利用に耐えられなければならない。
この際注意しなくてはならないのが、米国にサーバーをおかないことである。米国の情報開示のしくみはコンピュータに自由に査察できるようになっているので(NSAの仕事ですかね)、米国の法律の下にあるコンピュータリソースは丸裸である。
ゆえに待機系は米国以外がよいと筆者はひそかに考えている。

●クラウドによって何が変わるか【その7】
大多数のユーザーは、ハードウェアメーカーやソフトウェアベンダーの勝手なバージョンアップ戦略やサポート停止のおかげで、きちんと動いている端末やサーバーを買い換えたり、不要なデータ移行を強いられたことがあると思う。この原因は、ソフトウェアの稼動環境とハードウェアのスペックが密接に連動していたからである。このセット販売手法で巨万の富を手に入れたのが、マイクロソフト・インテル連合である。マイクロソフトがPCのOSのバージョンを上げる度にPCのメモリもハードディスクもCPU速度も足りなくなって、せっかくきちんと動いているアプリケーションを捨てなくてはならなくなるのである。これは目に見えない多大な保守料である。我々はハードとソフトの連動のおかげでこのアップグレード作戦にまんまと乗せられてきたのである。不要なニーズを突きつけられてしぶしぶソフトをアップグレードしたり、ハードを買い換えたり、アプリケーションをバージョンアップしたりしていたのである。
クラウドはハードとソフトの境界線がない。それゆえに、クラウド上に環境を移せばソフトもOSもDBもミドルウェアもアプリケーションもバージョンアップする必要は全くない。下手をすると、Windows2003のサーバーを22世紀まで運用することも可能なのである。
これによって、エンドユーザーはメーカーやベンダーの都合によるバージョンアップのサポート切れの恐怖から解放されるのである。長年安定して稼動してきた環境をずっと使い続けることができるのである。これはユーザーにとっては大きな福音である。 IBMの最新マシン PureSystems は、コンピュータと名のつくものであれば全て稼動するように設計されている。NECのOSもアップルのOSもDECのOSもすべて稼動する。これは筆者が昔いた UNIVAC、すなわち、Universal Computer である。
最新のクラウドは、このように脱ハードウェアを徹底しているのである。この大革命はまだ衆目の一致するところとはなっていない。クラウドが持っている潜在能力でもあるのである。


エピローグ
いまからざっと30年前、情報リテラシーは大型汎用機の中に集約されていた。
UNIVA、IBM、ブル、NEC、日立、富士通等々のメインフレームの中に経理システムも生産管理システムも販売システムも銀行の勘定系システムも統合化されていた。
それが1990年代のオープンの時代になってUNIXやWindowsのサーバーに分散され1企業1台の汎用機が200台のサーバーに分散された。
企業はその増殖し続けるサーバーの管理に悩まされいる。
このサーバーの分散時代が今また集中の時代に向かおうとしている。
今度の集中は前回とはスケールが違う。地球規模で集中し始めている。それがクラウドである。
現在グーグル、アマズン、マイクロソフト、IBM、セールスフォースの5大クラウドベンダーが世界中のコンピュータリソースの4割から5割を占めようとしている。
このことは、世界中のコンピュータリソースが米国に一極集中することを意味している。
これは国防上はとてつもなく恐ろしいことであるが、利便性と価格がこの流れを加速させることは間違いない。
日本大手連合がバラバラに覇権を争ってバラバラに米国に媚びていた間に、ハードウエア戦争には決着がついてしまったのである。
ついでに言えばコンピュータビジネスの決着がついてしまったといえる。
これが日本のサラリーマンエンジニアの限界である。
コンピュータの覇権はもう日本にはない。ついでに言うとアプリケーションの覇権を一瞬握ったかに見えたドイツももうすぐ覇権を失うであろう。
この大動乱の時代にわれわれは次の一手を打たなくてはならない。
アプリケーションのクラウド化である。
これさえ乗り遅れたならば日本からハードウエアの工場だけでなく、ソフトウエアの工場も消滅することになるであろう。
携帯電話ガラケーの二の舞になる。
大きなパラダイムシフトが始まろうとしている。
“所有するから利用するへ”この大動乱のシナリオを征するものはだれか?

これは短期決戦になるであろう。時代の潮目がすぐそこに来ている。

クラウド

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